「若い頃みたいな体に戻りたい」あるいは「病気をする前と同じようになりたい」と願う話はよく耳にします。でも、体は刻々と変化し続けているので、全く同じ状態というのは二度とありません。
かつて私は、和英辞典の分担執筆をしていたことがありますが、その時、「有為転変は世の習い」というフレーズに接し、方丈記の「行く河の流れは…」のイメージが浮かびました。川の流れという運動は、継続しても、反復はしません。同じ状態の繰り返しではないからです。
同じようなことが遠い古代ギリシアでも言われています。
「同じ川に二度と足を踏み入れることはできない」
これは、プラトン『クラテュロス』402Aに引用されたヘラクレイトスの言葉です。
私たちの体もまた、一瞬一瞬変化しながら、「私」であり続けています。
変わりながらも、なぜ「私」でいられるのか、とても不思議ですね。
この「動的平衡」という概念は、福岡伸一先生の著作で詳しく述べられていますので、興味のある方はご覧下さい。
『生物と無生物のあいだ』(講談社現代文庫)、
『生命と食』(岩波ブックレット)、
『動的平衡』(木楽舎)
など。